第2章 はじまりの夏
部活とバイトの両立は大変だろう。
しかしやると決めたからには、どちらも手を抜かず頑張るつもりだ。背中を押してくれた皆にもしっかりと答えられるように。
話を終えて教室へ向かう途中、1年生のフロア付近を通ったときに見知った黒髪とすれ違った。
「飛雄」
「っ花菜、さん…」
黒髪の主は驚いたように顔をあげる。
花菜が声をかけるまで気づいていなかったようだ。そして花菜の顔を見るなり、影山は悔しそうに目を逸らした。
彼の気持ちは花菜にもよく分かる。
影山の中にも、まだ昨日の敗北がはっきりと残っているのだろう。
マネージャーの自分でさえこんなにも悔しいのだ。選手である飛雄たちは、その何倍も悔しいはずだ。
「…すみません」
「らしくないなぁ」
目を逸らして落ち込む影山の肩に、花菜は優しく手を置いた。
「青城は強かった。でも、烏野だって強かった。皆が全員全力を出しきったとき青城がほんの少し上だっただけ。まだ終わってない。夏はこれからだよ」
「っ……」
敗北は次へ進む原動力になるのだ。影山のトスが今度こそ、勝利を繋ぐ命綱にきっとなる。
「大丈夫。だから飛雄もあんまり思い詰めないこと!」
影山の肩に当てた手をすっと下ろし、またねと花菜は笑顔で手を振った。その去り際、微かな甘い香りが影山の鼻をくすぐる。
気合いを入れてもらったはずなのに、なぜか影山の中には一層悔しさが広がった。
「花菜さん!」
気づけば影山は花菜の手首を掴んでいた。不思議そうに振り返った花菜の目を、影山はまっすぐ見つめる。
「俺、負けません。青城にも及川さんにも」
「うん!期待してるよ」
向けられた花菜の笑顔に影山は自分の胸が騒ぐのを感じた。さっき花菜に触れられた箇所が、なんだかやけに熱を帯びる。