第2章 はじまりの夏
烏野高校までは家の最寄りから電車で数分。朝練やお弁当作りのおかげで毎朝早起きしている所為か、朝はいつも余裕がある。
学校に着くなり、花菜は真っ先に職員室へと向かった。
「武田先生」
「あ、おはようございます結城さん。いつもながら早いですね」
朝から柔らかな笑みを浮かべる顧問に花菜はつられて笑顔になる。こんなにも親しみやすい顧問は、他の部を見てもなかなかいないだろう。
これを、と言って花菜はプリントをまとめたファイルを武田に手渡した。
「昨日までのインハイの記録です」
「ありがとう、確かに受け取ったよ。そういえば結城さんの方も"あの話"はどうなっているかな?」
武田の問いかけにコクリと頷き、花菜は少し申し訳なさそうに口を開く。
「部員たちにも承諾をもらえたので、予定通り夏休みから少しずつ始めるつもりです。迷惑をかけてしまいますが、すみません」
「いえいえ!大変だとは思うけれど、僕たちはみんな結城さんの味方だからね」
「ありがとうございます」
武田に一礼をして、用が済んだ花菜は職員室をあとにした。
"あの話"というのは 夏休み辺りから部活と両立してバイトを始める、という話である。
父親の負担を少しでも減らせたら、と思うものの バイトをするとなると部活の方に迷惑がかかるために、なかなか踏み込めずにいた。
しかし、部員たちに「俺たちのことは気にするな!」と背中を押されてようやく決心がついたのだ。
先輩マネージャーの清水にも「無理はしないでね。花菜ちゃんは頑張り屋さんだから」なんて、お優しい言葉をもらっていた。