第7章 フクロウの夜明け
「勉強とかスポーツとか… どんなものでも、新しいことに挑戦するっていうのは、大事なことなんじゃないかな」
「!」
花菜が微笑むと影山は小さく息をのむ。駅の方から電車が発車する音がした。
「あっ」
今のは花菜が乗ろうとしてた電車だ。
次の電車を検索しようと花菜はスマホを取り出した。と同時に、タイミングよくメールの受信音が鳴る。
「及川さん、すか」
控えめに影山が問うと花菜はううんと首を振る。
画面に映し出された名前。それは、花菜のスマホに新しく登録されたばかりの連絡先だ。
「京治くんだよ」
「京治って梟谷の… 幼馴染って言ってた人ですよね」
「うん」
烏野が東京を発つ寸前に花菜は京治と連絡先を交換していたのだ。
<お疲れ様。もう家に着いた頃かな>
もう二度と会うことはないと思っていた相手と、こうして画面越しに繋がっている。本当に人生何が起こるか分からないものだと、花菜は染々感じていた。
それにしても影山は本当に及川を意識しているらしい。前から知ってはいたけれど、ここのところ特に及川に反応している気がする。
「な、なんすか」
じっと自分を見つめる花菜に、影山はどこか照れたように言った。
厄介なライバルだと思ってるのは飛雄だけじゃなくて、徹先輩もなんだよ─ なんて、これを言うのはまた次の機会にしよう、と花菜は小さく首を振る。
「なんでもない」
影山の態度にくすっと笑って花菜はじゃあ、と手をあげた。
「もうすぐ電車来るみたいだから私は行くね。駅まで送ってくれてありがとう」
「気を付けて帰って下さい」
「うん」
もう一度頭を下げたあとに花菜は影山に背を向けて、駅の改札へと走っていった。