第7章 フクロウの夜明け
花菜が去っていったあと、京治も続いて木兎たちのいる部屋へと戻った。
教室のドアを開けた直後、京治はニヤニヤと笑みを貼りつけた数人の仲間たちに囲まれてしまった。
「んでどうだった~?彼女と二人きりになれた感想は」
先陣をきってきたのは、梟谷バレー部1のチャラ男 木葉である。
なんとなくこうなる予感はしていたけれどまさかこうも当たるとは。
京治ははぁ、と小さく息を漏らして特に表情を変えることもなく言った。
「楽しかったです。木葉さんたちが期待するようなことは何も起こってないですけど」
「なんだよ赤葦ー 全然ダメじゃん」
「木兎さんには言われたくないです」
「なんだとぉ!?」
でも ─
今日 数年越しに花菜と話をして、俺は彼女のことが好きなのだと改めて自覚した。
変わらない笑顔も 太陽のように明るい声も
《うん。それに かっこよくなった!》
胸がつまるほど嬉しかった。花菜の目に映る自分は、ちゃんと前より大人になっていたのだと。
でも、ほんとは全然違うんだ。
成長したのは花菜の方で俺は少しもかっこよくなんてなってない。
もう何年もたったひとりの女の子に片想いをし続けている、どうしようもない男だ。
"花菜は可愛くなった"と、言おうとして躊躇った。いつもならさらっと言えたのかもしれない。
でもどうしてか、恥ずかしさが勝って声に出すことは出来なかった。
けれど─ これでやっと前に進める。
止まっていた時間がようやく動き出す。
「明日は今日より良いトス上げるんで期待しててください」
「よっしゃあ!!期待してんぞあかーし!」
「はい」
ドクドクと波打つ心臓の音。お陰で血の巡りが良くなって指先の感覚までもが研ぎ澄まされたみたいだ。
明日は本当に良いトスが上げられそうだな、なんて 花菜の笑顔を脳裏に浮かべながら京治はふっと口角を上げた。