第7章 フクロウの夜明け
「花菜の右手に書いてある名前… それ、花菜の彼氏?」
「…!」
突然右手を指摘され、花菜は反射的に自分の手を胸元に引き寄せた。
完全に忘れていた。まさか見られていたなんて。
さすがセッターというべきか、周りをよく見ている。
「っ、これは先輩にふざけて書かれただけで、彼氏ってわけじゃないよ」
「じゃあ彼氏は──」
「いないよ」
「そう、か…」
一瞬 京治の肩が安心したようにそっと落ちた。
「京治くんは彼女さんいないの?」
「いないね」
「そうなの?すごくモテそうなのに」
小学校のときだって京治は相当モテていた。
あの頃からさらにかっこよくなっているのだから、彼女なんてすぐに出来そうなものだけれど。
「でも 好きな子はいるかな」
「!」
「今はまだ俺の片想い。だけどやっと前に進めそうなんだ」
京治が好きになる女の子なんて、どんな子なのだろう。大人っぽい雰囲気の人だろうか。
そしてきっと、とても素敵な人だろう。
「私応援するよ!」
「…ありがとう」
すっと目を細めてそう言うと、京治は静かに立ち上がった。
「そろそろ戻ろう。チームメイトも心配する」
「そうだね」
京治と過ごす時間はあっという間だったが、こうして話せてなんだかスッキリした気がする。
「明日もお互い頑張ろうね」
「もちろん」
京治の返事にパッと笑顔を浮かべ、花菜はじゃあね!と手を振って校舎の方へ走っていった。