第7章 フクロウの夜明け
思い返してプルプルと手首を震わす花菜を見て京治は可笑しそうに笑った。
「あの人は全国で5本の指に入るって言われてるエースなんだ。俺が梟谷に入ろうと思ったのも、木兎さんのプレーに魅了されたからだったし」
「どうりであの威力… 宮城にも全国三大エースのひとりがいるけど、木兎さんとは全然雰囲気が違うなぁ」
「白鳥沢の牛若か」
「うん」
やはり、彼も知っているのか。
それもそのはず。牛島若利は世界ユースにも選ばれるほどの実力者なのだ。
「花菜は、もうコートには立たないの?」
「公式戦はもうないかな。中学までは選手としてプレーしてたんだけど」
元々高校に入ったらバレー以外のことをやってみたいと思っていた。しかし結局、どこかでバレーと繋がっていたいと思い花菜はマネージャーになる道を選んだのだ。
「マネをやってるとね、自分が選手だった時とは少し違った達成感とか、嬉しさがあるの。自分がコートに立って戦っているわけじゃないのに、不思議と "自分も一緒に戦ってる" って思うの」
選手たちと一緒に春高という大きな目標に向かってひたすら練習を積み重ねていく。
自分がコートに立たなくとも、こうしてバレーボールと繋がっていられることが花菜はすごく嬉しかった。
「…楽しそうで良かった」
「え?」
「いや、たぶん俺はずっと心配してたんだと思う。東京を出て新しい土地で、花菜はどんな風に過ごしているんだろうって」
過去の懐かしさが、この安心感に結び付いているのだろうか。柔らかい京治の声に花菜は包まれるような安堵を感じていた。
でもきっと、今の自分があるのは昔の京治がいてくれたからで。