第6章 夏風の誘い
「なー赤葦 聞いてるかー?あかーしッ!」
「っ、すみません。なんでしたっけ」
木兎の声で京治ははっと我にかえった。本日の試合は全て終わり、解散の時刻となる。
さっき梟谷の荷物が置いてある場所へ移動して来るときに烏野一行とすれ違った。京治は首の動きだけで花菜に「外で待ってて」と伝えた。
花菜もうんと頷いていたから多分伝わったのだろう。
「ったくよぉー、いくら幼馴染の子と運命的な再会をしたからって俺の声を無視すんなよー」
「はい。すみません」
ぶーぶーと文句を吐く木兎の隣で京治は小さく息をつく。溜め息の原因は言うまでもなく、烏野の2年マネージャーである。
数時間前に花菜と信じられない再会を果たしてから、京治の脳内の半分以上は花菜が占めていた。
《花菜ちゃーん!こっちこっちー》
最初に彼女の名前が聞こえたとき、京治はまさか…と反応した。
でもそんな都合のいいことが起こるはずはないと、どこかで言い聞かせていたのだ。
広い体育館の一角から、なんとなく聞こえただけ。本当に「花菜」と言っていたのかすら曖昧だ。
いや、例えそうだったとしても、同じ名前なんて世界中を探せばいくらでもある。
そう 思っていたのに。
《了解しました!花菜さんッ!!》
今度ははっきりと聞こえた彼女の名前。
あり得ないと思いながらも、心のどこかでは:"そうであって欲しい"と淡い期待を抱いていたのかもしれない。
向けた視線の先で彼女の横顔を見つけた。
まるで止まっていたはずの時間が再び動き出すかのように、心臓がドクドクと速く波打った。
自分の目が映しているのは紛れもなく花菜本人だと、直感ですぐに分かった。
もちろん小学生の頃とは違う。身長だって伸びているし、顔立ちだって少し大人びていた気がする。
それでも彼女の笑顔を見た瞬間に
"変わってない"と、そう思った。