第6章 夏風の誘い
真っ直ぐで太陽みたいな眩しい笑顔。
数年前 京治が大好きだった笑顔だ。
《花菜……?》
気づけば京治は彼女の名前を呼んでいて、感極まって花菜の手まで掴んでいた。
彼女の手から伝わった温もりはバラバラだった2人の長い時間を繋ぐようで、京治の胸はドクンと騒いだ。
《京治、くん……?》
彼女の口から自分の名前が発せられた。
ただそれだけのことなのに、嬉しくて仕方なくて今すぐにでも花菜を抱き締めてしまいたくなった。
《練習が終わったら、体育館の外で待ち合わせよう。俺も花菜と話がしたい》
そう言って京治は、仲間のもとへ戻った。
花菜がコーチに呼ばれたのは京治にとって、タイミングが良かったのかもしれない。もしあのまま花菜の側にいたら何かに負けてしまっていた気がする。
淡い期待が現実になった。
どうしようもなく嬉しくて、どうしようもなく戸惑っている。
無論 コートに立ってしまえばそんな邪念も嘘のようになくなるのだが、コートを離れた瞬間、またすぐに花菜のことを考えてしまうのだ。
「木兎さん」
「んー?」
「俺、彼女のとこに行ってきます」
はやく花菜と話がしたい。
その思いが京治の中でどんどん強くなっていく。
「わーった!」
木兎は大きな声で頷いた。
しかし、条件付きで。
「彼女ちゃんと話ができたら、明日はいつも以上に良いトス上げてくれよ!!」
ビシッとガッツポーズをしながら叫ぶ木兎に京治はふっと笑みを滲ませる。
「もちろんです」
花菜と思う存分話をしたら、明日は最高に良いトスを仲間たちに上げてみせよう。
木兎に小さく頭を下げて京治は体育館の出口へと足を向けた。