第6章 夏風の誘い
「今度はなんか楽しそうっすね」
「え?」
「花菜さんはいつも笑ってて下さい。花菜さんが笑ってるとなんか元気貰えるんで」
影山の言葉に花菜は驚いたように目を見張る。
今日の影山は少しヘンだ。彼はこんなことを言う人だっただろうか。しかし、そんなことを言われて嬉しくない女の子なんて、たぶんいないだろう。
「ありがとう」
花菜はふわりと笑顔を浮かべ、あまつさえどこか照れたように頬を染めた。
もちろん、その笑顔が影山にとってどれほどの威力があるかなど知るわけもなく。
「あ」
ふと何かに気づいたようで影山はくいっと首を傾ける。
「そこ、なんかついてますよ」
「うそ!どこどこ?」
「ここ─」
影山の手が自分の右手に触れたとき、花菜はしまったと思った。
が、時すでに遅し。
「な…っ!」
完全に油断していた。
右手に書かれたとある文字。それは、昨日バイトの帰り道で花菜が及川にされた落書きである。
「ごめん これは忘れて」
「お、及川徹って… あの及川さんですか?」