第6章 夏風の誘い
この速攻がこれから先、全国を相手にどこまで通用するのか。
伊達工戦や青城戦のときもそうだった。強いチームが相手になるほど、当たり前だが速攻の決定率は下がっていく。
パタン、と閉じたノートの表紙には大きな字で「春高への道」と書かれていた。
今日の烏野のセットは恐らくこれで終わりだ。
隣コートで行われている生川と音駒の試合が時間的にも今日のラストゲームだろう。
"春高"
ノートの表紙に刻まれたその二文字を花菜はじっと見つめていた。
「あの 花菜さん」
「へ?」
急に影山に声をかけられて花菜はビクッと肩を揺らす。考え事をしていたせいか、すっとんきょうな声まであげてしまった。
「大丈夫すか?何か思い詰めてるみたいでしたけど」
どうしてバレたのだろう。影山のくせに今日は随分と鋭い。
「大丈夫だよ。飛雄こそ、初めての補習はどうだった?」
「終わらせるのに必死だったんで内容はもう忘れました」
「あはは なにそれ」
ちゃんと受けなきゃだめだよ、なんて笑いながら花菜は隣のコートに目を移す。
あ またあの人だ。
さっきからバシバシ決めているが一体何者なのだろう。
「音駒のミドルブロッカー…」
「!」
「前戦ったときにはあんなやついませんでしたよね」
「あ、うん。私も今ちょうどそれ思ってた」
"リエーフ"と呼ばれた彼はよく見ると190㎝はある。長いリーチを最大限に活用して強烈なスパイクを叩き出していた。
昼に戦ったときに見た感じだと、飛び抜けているのはスパイクだけでレシーブやサーブの技術はほぼ初心者に近かったけれど。
音駒も前とは違う。強くなるため、新しい戦力を育てているのかもしれない。
きっとこの夏、春高に向けて全国の高校がそれぞれ新たな道を走り出す。
この機会を通じて烏野は何をしていくべきなのか、マネージャーとして自分に出来ることは何なのか。考え出したらキリがない。
でも 同じくらいワクワクした。