第6章 夏風の誘い
もうすぐ試合が始まるし、今はまだゆっくり京治と話せそうにない。
「はい。今行きます」
どこか残念そうに眉を下げた花菜に気づいた京治は、ふっと笑みを滲ませた。
「練習が終わったら、体育館の外で待ち合わせよう。俺も花菜と話がしたい」
そっと耳元で囁かれた京治の声に花菜はドキリと胸が鳴る。うん、と首を縦に振った。
花菜が頷いたのを確認すると、満足そうな笑みを象って京治はそのまま梟谷の方へ戻っていった。
彼とはまたあとで話せる。だから今は目の前の試合に集中しよう。
そう決めて、花菜は手招きする烏養の元に足を向けた。
「結城、お前たしか中学のときは北川第一の選手だったよな」
「はい」
「そこで、だ」
ビシッと指を立てた烏養は真剣な眼差しで花菜の目を射抜くように見据えた。
「この夏の間はマネージャーの仕事もやりつつ、選手たちの練習にも付き合ってもらおうと思ってる。お前の分析力であいつらをサポートしてやってほしいんだ」
「アドバイス、とかですか?」
「あぁ。実際に混ざって動いてみてもいい。特にそれぞれが違う練習をしたがっている今は、みんな相手がほしいとこだろう」
なるほど、と花菜は頷く。
『分かりました。やってみます』
役に立てるかは分からないけれど、それで選手たちの力になれるのなら、引き受けない手はない。
頼もしい花菜の返事に烏養はよし、と口角を上げた。
「選手や清水たちにも俺の方から趣旨は伝えてある。だからお前は思う存分身体を動かしてくれ。 あぁそれから、他校の分析記録も引き続き頼んだぞ」
「はい!」
今まで以上に大変になるだろうが、その分やりがいもありそうだ。
烏養に小さく頭を下げて花菜はますます気を引き締めた。