第6章 夏風の誘い
3年生の3人は、少し離れたところからそんな3人を見守っていた。
説教をする花菜の後ろ姿を見て、東峰はあぁ、と苦笑いを浮かべる。
「また怒られてるよあのふたり…。普段は穏やかだけど怒らせると結構怖いんだよなぁ」
「ははっ。ちょっと大地みたいだな」
「おい、なんだよそれ」
とはいいつつ、3年メンバーも花菜のことをかなり頼りにしているようで、説教中の花菜の後ろ姿をなんとも頼もしげに見守った。
初めての場所ですぐに騒がない
バスの中は散らかさない
大声を出すのは試合中だけ
次々と例を上げながら花菜はガシッと田中と西谷の肩を掴む。
「いい?この遠征中、絶対に他の学校に迷惑かけたりしないこと」
以上!と言って花菜は二人の肩を離した。
綺麗に背筋を伸ばして、ふたりは勢いよく頭を下げる。
「「了解しました!花菜さんッ!!」」
なんだかとデジャヴだが本当に大丈夫だろうか。
若干の不安を残しつつも、花菜はメラメラオーラを消して今度は明るく笑ってみせた。
「試合、頑張ろうね」
突然切り替わったこの笑顔に、烏野メンバーの全員が一瞬ピタリと固まった。
そして、同じように
「花菜……?」
運命は突然に動き出す。
聞き覚えのない声に花菜は恐る恐る振り向いた。目があった瞬間、心臓がドクドクと大きく脈を打つ。
黒い髪、スラッとした長身の どこかクールな雰囲気の人。
花菜が口を開くより先に彼の手が花菜の左手首を優しく掴んだ。
「花菜…、なのか……?」
大きく見開かれた彼の瞳に、同じように驚く自分の姿が映っていた。ドクンドクンと鳴り続ける心臓の音で周りの音がかき消されていく。
どうして、彼がここに──