第5章 それぞれの温度
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「徹先輩!お待たせしました」
「お疲れー。今日は終わるの早かったね」
『はい。烏野は明日から2日間、東京遠征ですから』
まずは2日間。
そして夏休みに入ってから、本格的な1週間の合宿になる。その間はバイトに出られないので、夏休み後半までしばらくバイトはお休みだ。
それにしても美羽、頑張ったんだなぁ。
帰り際に花菜は美羽から "例の先輩" との報告を聞いていた。勇気を振り絞って話しかけ、一歩進展があったそうだ。
「何ぼーっとしてんの」
「!」
美羽との会話を思い返していると、隣を歩く及川が花菜の額をコツンと突いた。
触れた額に片手を当てて花菜はすぐに目を逸らす。
あれから、ひとつ気づいたことがある。
それは花菜が明らかに及川を意識しているという事実だ。そして花菜は、自分は及川に恋をしているんじゃないかと、最近になってそう思うようになっていた。
まだ全然どうしたらいいかなど分からない。それに、もしもこれが本当に恋なのだとしたら─ 自分は彼とどうなりたいのだろう。
「花菜ー?」
「っはい?」
「どうしたの。なんか最近 やけに緊張してない?」
そう言って可笑しそうに笑う及川は今までと何も変わらない。
こんなに掻き回されてるのは私だけなのかと思うと、なんだか悔しく思えてくる。
「あ、若利先輩だ」
「え?」
及川は花菜が指さした方に目を向けたが、そこに牛島の姿はない。
不思議そうな顔をする及川をみて、花菜は楽しげに笑いだした。
はっと気づいた及川が横を振り返ると、花菜は嬉しそうな笑みを浮かべて「引っ掛かりましたね」と無邪気に笑った。