第5章 それぞれの温度
「俺になにか用事かな?」
「あっあの、私 2年の"睦月美羽"って言います。いつも外から及川さんたちの練習をよく見てて、凄いなって思ってて…だからその、これ良かったら皆さんで食べてください!」
そう言って美羽は大きめの紙袋を及川に渡す。見ると、中には綺麗に包装紙で包まれたお菓子が入っていた。
それでわざわざ来てくれたのか。とてもいい子ではないか。
「ありがとう。みんな喜ぶよ」
その言葉を聞くと美羽は安心したようにふわっと笑顔を浮かべた。
なんか子犬みたいな子だな、と及川は思う。
「それじゃあ、私は失礼します!突然呼び出したのに出てきてくれてありがとうございました」
自分の教室へ戻る途中に美羽は一度、及川にペコリと頭を下げて2年フロアへと続く階段に消えていった。
美羽に手を振った直後、制服のポケットの中でピロンと及川の携帯が光る。
……花菜?
ディスプレイに映った彼女の名前を見ると及川はすぐにメッセージを開いた。
<テスト返ってきました。現代文100点でした!徹先輩に教えてもらったおかげで数学もすごく良かったです。今度また何かお礼しますね>
満点のテストを笑顔で見つめる花菜の姿が脳裏にふと浮かんできて、及川の口元には自然と笑みが滲む。
さっきまでねちねち悩んでいたのが嘘のようだ。
微笑みをそのままに及川はルンルンと鼻歌を歌いながら岩泉のいる教室へと戻った。
教室へ足を踏み込むなり、ニヤニヤしてんじゃねぇと岩泉から一発蹴りを食らった。