第5章 それぞれの温度
─ 同時刻
青葉城西高校ではひとりの男がうーんと頭を抱えていた。
その男 及川徹は、相棒である岩泉の教室に居座っては、さっきからずっとこの調子なのだ。
「ねー岩ちゃんどう思う?」
「知るか。つーかそこ俺の席だっつの!」
「あーっ!もう分っかんない!あれはどういう反応だったんだろ…」
「良かったじゃねぇか。ついに結城もお前のクソさに気づいたんじゃねえの」
「ひどいよ岩ちゃん!」
いつもの如くそんな言い合いを繰り広げる2人だったが、及川の表情はいつになく悩ましげである。
昨日公園で待ち合わせた時は、花菜も及川もいつも通りだった。問題は帰り道だ。
彼女は確実に、及川の手を意識していた。確実にだ。
いつもであれば完全スルーなはずなのに。
花菜の反応を見る限り、嫌がっているようには見えなかった。だとすればやはり、少しは自分のことを"男"として意識し始めてくれたのだろうか。
うーんと唸り、及川はわしゃわしゃと髪を揺らす。
「でもこれで、実は俺の勘違いでした~おしまい。なんてことになったら俺相当ヘコむよ」
「あぁ?」
月バリの牛島のページを鋭い目で睨み付けている岩泉をじっと見つめて、及川ははぁーと長い溜め息を吐いた。
「岩ちゃんはいいよね。恋なんて無縁だからさ!バレー以外で悩むこともないでしょ」
「テメェあとで覚えてろよな」
ワナワナと燃えたぎる岩泉の怒りに及川は慌ててゴメンゴメンと謝った。
「及川ー」
「ん?マッキーじゃん。どしたの?」
廊下から同じバレー部の花巻に呼ばれて、及川は面倒くさそうに頭を掻きながら重たい腰をあげる。
そんな及川に向けて花巻はさらに面倒そうに口を開いた。
「なんか呼ばれてんぞ。2年の女子だってさ」
「分かった。今行くよ」
及川が廊下に出ると、彼を待っていたのは初めて見る女の子だった。
自分の記憶を辿ってみるも、やはり面識はなさそうだ。