第5章 それぞれの温度
「もし、今まで何とも思ってなかったようなことが急に恥ずかしくなったり、変に意識しちゃったりしたら… 柚ならどうする?」
「どうするもなにも、あー私この人のこと好きなんだなーって思うわよ。なになに〜花菜にもついにそんな相手が現れたの?」
花菜の表情を探るようにニヤニヤ笑みを浮かべる柚に、花菜はかぁっと頬を染めて分かりやすくふい、と目を逸らした。
好き…? 私が、徹先輩を?
昨日の出来事を思い出して花菜の頬はさらに紅色を増す。胸がトクンと鳴った気がした。
「それにしても花菜からこんな話が聞けるなんて。それで?相手は及川先輩なんでしょ」
「っ、なんで分かったの!?」
「あは。やっぱりそうなんだ?」
「あっ…、」
見事にカマをかけられてしまった。
それにしても、自分以上の洞察力かもしれないと花菜は密かに一驚する。
結論の出ない気持ちに花菜が頭を悩ませている最中、5組の教室の引き戸がガラッと開く音がした。
「「花菜さん!俺たちやりました!!」」
バタバタと花菜の席に駆け寄るなり、田中と西谷は己の答案用紙を誇らしげに掲げてみせた。
「これが俺らの!」
「実力だぜ!」
45点と42点─ 赤点ギリギリの答案用紙に花菜は苦笑いを浮かべる。
だがそれでも、補習にならなかったということは このふたりも2人なりに、かなり頑張っていたのだろう。
「おめでとう!これで2人とも心残りなく東京遠征に行けるね」
「「おう!ありがとな花菜」」
ふたりの明るい元気な声に花菜もつられて笑顔を見せた。