第3章 公式なんていらねぇ!
東京遠征を控え、進学コースの2年が交替で西谷と田中の面倒を見ることになっていたのだと、花菜はようやく状況を理解する。
柚の言葉に勢いよく頷き、田中と西谷はバッと効果音がつきそうな勢いで頭を下げた。
「「俺たちに勉強を教えてください!!」」
「はい」
寝起きとは到底思えぬ破壊力のある笑顔。
これは潔子さんにも届くほどの美しき天の恵みだ… などと感激している田中と西谷をよそに、花菜はテキパキとテキストを広げていった。
田中と西谷が持ってきたのは数学のテキストだ。
ちょうど昨日、図書館で花菜が及川に教えてもらった部分だった。
「どこが分からないの?」
「どこが分からないのかが分からない」
なるほど。勉強できない人の典型的な例である。
「イデっ」
キリッとかっこつけながら言った田中を柚が横からバシッと叩いた。花菜は苦笑いを浮かべながらうーんと頭を捻る。
こんなものだろうとは思っていたが、これだとやはり最初から説明するしかないだろうか。
多少面倒がかかったとしても、この2人なしの東京遠征はチームとしてまずすぎる。
「分かった。じゃあまずはここ!この単元の1番基本の公式ね。これを1分で覚えて」
「「1分!?」」
「よーいスタート!」
ぬぉぉおお!と奇声を発しながら無我夢中で公式を書きまくる田中と、ひたすら公式を唱えまくる西谷。
時間制限を設けることでふたりのやる気を誘い出す作戦だ。
猪突猛進タイプにはこのやり方が案外効くのでは、と、そう考えた花菜の作戦である。
ニッコリと浮かんだ花菜の笑顔を柚は初めて恐ろしいと思った。
「そこまで!」
「嘘だろっ まだ全然覚えられてねぇ!」
「俺は大丈夫だぜ」
さすが烏野の守護神だ。とても頼もしい。
「じゃあ自信のある夕からね」
花菜はトントンとノートに書かれた公式をペン先で示した。