第3章 公式なんていらねぇ!
真面目な優等生だと思われがちだが、実はところどころ抜けているところがある─ それが花菜だ。
事実、花菜は普段から授業中の居眠り常連である。
どれだけ起こしても目を覚まさないことから、去年のクラスでは "眠り姫" なんてあだ名がついたくらいだ。
そして眠り姫はテスト前になると更にその底力を発揮する。
一体どんな夢を見ているのか。花菜はただ幸せそうに両腕を枕にして眠っている。
閉じられた瞳に長い睫毛が一層際立った。
なんだ。
なんか…… 可愛いじゃねぇか。
「ちょっと、間違えても変な目で花菜のこと見たりしないでよー」
「「ギクッ」」
図星を突かれて田中と西谷は揃って固まった。
柚による堅固な護衛。もしもこの場に及川がいたら、きっとすぐに仲良くなれたことだろう。
「でも意外だよな。花菜が授業中寝てばっかとかよ。それで進学コースだからすげぇよなー」
「表向きでは手を抜いてるように見えても、影ですごい頑張ってるのよ」
「見えない努力か…!尊敬するぜ花菜!」
「ん…」
西谷の声で気がついたのか、花菜は重たい上半身をゆっくりと起こした。
誰かに呼ばれた気がしたけれど気のせいだろうか。そもそも今は、いったい何時間目なのだろう。
ぼんやり映る風景の中に、見知った坊主と逆立て金メッシュを見つけて花菜はようやくパチリと目を開いた。
「夕、田中!? あれ、ここ5組だよね…?どうして2人がここに?」
「ふたりとも花菜に勉強教えてもらいに来たみたいよー」
「勉強?」
と、首を傾げてから花菜は思い出した。