第3章 公式なんていらねぇ!
─ 翌日・昼休み
4限終了の鐘が鳴った直後に花菜の在籍する2年5組の引き戸がバーン!と豪快に開かれた。
「「結城花菜様!どうか俺たちに、勉強を教えてください!!」」
まるで卒業式の呼名のごとくビシッと背筋を伸ばして、男バレ2年の問題児がふたり、5組の教室へと足を踏み入れた。
問題児─ つまりは田中と西谷の登場によりざわついていたはずの教室が一瞬でシーンと静まりかえる。
クラスメイトの視線は一斉に花菜へと集まったが、当の本人は田中と西谷の呼び掛けに全く気づいていない。
それどころか、窓側の一番後ろの席で呑気に気持ちよさげに眠っていたのだ。
「うぉおおい!?大丈夫か花菜!ノヤ、はやく救急車を!」
「おう!今呼ぼうとして─」
「ストーーッップ!」
「「お?」」
はぁーと呆れた溜め息をつき、柚はやれやれと首を振った。その右手にはいちごみるくが握られている。
「ちょっとは大人しくしなさいよねーあんた達。それと、救急車は呼ばなくて結構」
「工藤じゃねえか!」
「相変わらず声でけーなーお前」
ピキッと入った怒りの顔に田中は咄嗟にスミマセンと謝った。
去年から花菜繋がりで面識があったために、柚もこの2人とは気軽に話す仲である。
田中の言葉に小言を溢しながら、柚は眠る花菜を庇うようにしてふたりの前にドンと立った。
「テスト前の花菜はいつもこうして夢と現(うつつ)の狭間を彷徨ってるの。今日は授業中もずっと寝てたみたいだし、そう簡単には起きないわよ」
「なんだと!?どうする龍、これじゃ俺たちがここに来た意味ないぞ」
「こ、これが進学コースの戦場(テスト前)か。俺たちとはレベルが違うぜ…」