第1章 また会えるよ
「ん……」
ジリリリ、と鳴り続ける目覚まし時計を止めて、花菜はベッドに腰かけたまま大きく伸びをした。
まだぼんやりする目を何度か上下し、たった今止めたばかりの時計に目をやった。時刻は5:30を表示している。
「夢…、か」
ベッドから腰を起こすと花菜はすぐに朝の支度に向かった。洗面所に映った鏡の中の自分に、夢で見た彼の笑顔が重なる。
こんな夢を見るのは久しぶりだった。どうして急に彼が出てきたのだろうか。単なる偶然かそれとも何か……
「いや、きっと偶然だよね」
深く考えるのはよそう。
この夢は心の中で大切にしまっておく。今日からまた、新たな日々が始まるのだ。気合いを入れて行かなければ。
バシャバシャと浴びた冷たい水で花菜の眠気は完全に飛んでいった。
「はい、これお弁当」
「悪い。いつもありがとな」
「ううん!お仕事頑張ってきてね」
「任せとけ。花菜の弁当があれば元気100倍だ!行ってきます」
「行ってらっしゃい」
朝から陽気な父を見送って花菜はようやく一息ついた。
小学4年生の時に病で母を亡くしてから今まで、花菜は父とふたりで暮らしている。
小学校卒業と同時に東京から父の故郷である宮城へ戻ってきたのだが、すっかりここでの暮らしにも慣れた。
「静かだな……」
昨日、花菜がマネージャーをしている烏野男子バレー部のインターハイが終わった。強豪 青葉城西高校に敗れたのだ。
目を閉じて昨日の景色を思い返す。思わず鳥肌がたってしまうほど、凄まじい試合だった。
試合は昨日終わったのにまだ緊張感が残ってる。
「…青城は今日が決勝戦だよね」
そう呟いたと同時、机の上でスマホが光る。メッセージの受信音だ。こんな朝から誰だろうか。
不思議に思って見てみると、ロック画面のお知らせの一番上には "及川徹" の名前が入っていた。