第3章 公式なんていらねぇ!
あぁ、やっぱり好きだ。
目の前の彼女に及川の心臓はさっきから鳴り止むことを知らない。図書館に足を運んだのは本当にただの気まぐれで、まさか花菜と遭遇するだなんて思ってもいなかった。
いつからだろう。花菜というたった1人の女の子にこんなにも夢中になってしまったのは。
最初はただ、飛雄をからかうつもりで花菜に近づいた。
飛雄が女の子と話してるのが珍しくて、なんだかちょっとムカついて、ちょっかいをかけてやろうと思っただけだ。
バレーの実力もあったし、何より可愛いかったので、前々から花菜の存在は知っていた。
いつも笑顔で明るくて、びっくりするくらい弱音を吐かない。
なのに時々ちょっと儚い顔を見せるから、なんとなく放っておけなくて守りたくなる。そんな子だった。
あの飛雄が夢中になるのも分かる気がした。
そして気づいたときにはもう、俺は花菜の虜になっていた。
─2年前、中学の卒業式で及川は花菜に告白した。完璧に振られてしまったけれど。
その原因が花菜の幼馴染にあるのではないか、ということはなんとなく予測がついていた。けれど及川は、東京と宮城だなんて、もう2度と会うこともないだろうと勝手に安心していたのだ。
しかし今、花菜が東京へ行くと聞いたとき及川の中には一気に不安が広がった。
そんな何百万分の一もの確率を、花菜たちは引き当ててしまうような気がして。
「運命、か」
ポツリと呟いた及川の横顔を花菜は不思議そうに見つめている。
もしも本当にそんなものがあるのなら、俺にとっての運命はきっと花菜の存在なんだろう。だから俺はまだ、彼女を諦めるつもりはない。
「徹先輩?」
「あぁ、ごめんごめん。さてと、じゃあ早速数学やりますか」
「はい!」
だからもう一度だけ
飛雄にも幼馴染くんにも負けない。
今度こそきっと振り向かせてみせるから、覚悟してなよ。
唇に小さな笑みを象り、及川は花菜のノートにペンを走らせた。