第2章 はじまりの夏
ある日の部活前。部活で使う荷物を取りに行こうと、花菜は部室に足を運んでいた。
「はぁ~っ!?」
「もう、田中うるさい!」
「聞いてくれよ花菜!月バリに及川が… それも写真つきで…」
「徹先輩が?わぁほんとだ」
田中の持つ月バリを覗きこむなり、写真写りもいいねと花菜は感心したように呟いた。
花菜が及川を褒めたことが気に食わなかったのか、影山はひとり むっと眉を潜めている。
「まぁ実力は全国クラスだからなー。で、何て書いてあんだ?」
菅原の問いかけに、田中はえっと…とさらに記事を読み上げていく。
「及川選手の好きな食べ物は牛乳パン。座右の銘は 叩くなら折れるまでェ!?」
また、なんとも彼らしい。
「そんな余計な情報はいらねぇよ!」
「あ、はは……」
西谷の言う通り本当に余計な情報ばかりだが、さすが徹先輩だとでも言うべきか。
気をとり直して及川の隣の記事に目を移すなり、花菜は あ、と声をあげる。
「青城も打倒白鳥沢を目指してレギュラーだった3年生がほとんど残ったんだ」
「オラ青城かかってこいやーっ!」
「おい、破れるだろ!ったく…」
田中が落とした月バリを拾い上げて偶然開いたページに、菅原は目を見張った。
「ウシワカだ」
「って、これって…!」
「おーい。さっさと外出ろ。ランニングに行くぞ」
ちょうどタイミングよくかかった澤村の収集に菅原はいや、と声を渋らせる。
「ウシワカが世界ユースに入ってる」
「え!?」
「やっぱり若利先輩は一段違いますね」
誰よりも先を走る白鳥沢の絶対的エース。彼を前にしたら誰だって、一度は怯みそうになる。
世界ユースとは、19歳以下の日本代表のこと。その事実に今ここで誰よりも驚いているのは間違いなく花菜だった。
そんな花菜に向けて西谷はとある疑問を投げ掛ける。