第2章 はじまりの夏
「それよ。花菜が恋を出来ないのはその京治くんの存在が大きいから。いっそのこと思いきってさ、東京行って京治くんに会いに行くのはどう!?」
「っ、無理だよ。東京って言っても京治くんの住んでいる所も、通ってる高校も分からないのに」
「あーっ!せめて高校だけでも分かればなぁ」
なんて、もどかしそうに騒ぐ柚の方が、当の本人よりも数倍積極的だ。これが彼氏持ちの行動力か、と花菜は密かに感心した。
「そもそも向こうは私のことなんて覚えてるのかな」
「そりゃあ覚えてるでしょー。花菜みたいな可愛い女の子、簡単に忘れるやつは男じゃないわ」
それは違う気がする、というよりも、柚は花菜を過大評価し過ぎているところがあるのだ。
花菜が苦笑いを溢したのと同時に昼休み終了のチャイムが鳴った。今日は午前授業なのでこれで学校も終わりだ。
「よし。じゃあ私 部室行ってくるね」
「あれ?今日は男バレオフって言ってなかった?」
「そうなんだけど、今日のうちにやっておきたいことが沢山あるから」
「そっか。私も部活だー!じゃあ花菜またね。夜LINEする」
「うん!」
廊下で柚と別れてから花菜は急いで部室に向かった。書き留めておきたいこと、準備しておきたいこと。まだまだ沢山やることがある。
インハイに負けても立ち止まっている暇はないのだ。
部室につくと、そこには既に花菜より先に清水の姿があった。
部室の空気が彼女のいる場所だけ澄んで清らかに見える。
「お疲れ様です。潔子先輩も来てたんですね」
「うん。なんだかじっとしていられなくて」
やはり考えることはみんな同じなのだろう。
着替えている最中に体育館の方からは日向と影山の叫び声が聞こえてきた。