第2章 はじまりの夏
「ごめんごめん。でもさ、私ちょっと心配してるのよ」
「心配?」
「だって花菜、及川先輩に告白された時だってそうして断ったんでしょ?」
片付けを進める花菜の手がピタリと止まる。柚は心配そうな顔で、花菜の目をじっと見つめた。
「私は及川先輩に会ったことないけどさ。花菜の中で及川先輩の存在が他の人よりも特別なんだ、ってことは分かるよ」
「それは…」
「どうして及川先輩の告白を断ったの?」
さっきまでとは違って柚の声は真剣だ。花菜の脳裏には数年前の記憶がよみがえる。
─あれは2年前
花菜のひとつ上の代、つまり及川たちの代の中学校卒業式のことだ。式が終わったあと及川に呼ばれ、花菜は人生で初めて告白というものをされた。
あのときから花菜にとって及川の存在は他の男子よりも確かに特別だった。
しかし、返事をしなければと考えたときに花菜の中には別の男の子の記憶が流れたのだ。
それが、幼いころの京治の記憶だった。
それは恋愛感情なのか、なんとなくなのか。
自分でも分からなかった。
どうしてあそこで京治のことを思い出したのかは、今でもよく分からない。
それでも京治を忘れられずにいる自分がいるのは紛れもない事実だった。
結局そのまま花菜は及川の告白を断り、特に気まずくなることもなく友達に戻って、今に至る。
「確かに徹先輩は特別だよ。でも付き合うって考えたとき… いつもどこかで京治くんのことを思い出して、何となく躊躇っちゃうの」
花菜の答えを最後まで聞くと、柚は相槌をうちながら小さく息をついた。