第2章 はじまりの夏
「花菜もとうとう恋に目覚めたのね」
「えっ?」
「というか、実際のところどうなのよ。私たちもう高2だよ?今がまさに青春のど真ん中でしょ!」
「そ、それはそうなんだけど…」
はぁ、と柚が溜め息をつくのも無理はない。事実、烏野2年の中でも花菜はトップを争うほどの人気を誇っている。
ただ、本人にその気がないために、告白した男子は全員きっぱりと断られることで有名だった。
「花菜はモテるんだからその気になればすぐに彼氏出来るのに」
そうは言っても、今までに1度も彼氏なんて出来たことがないのだ。付き合うという感覚もよく分からない。
こんなことでこの先大丈夫なのかと、少し心配になることもあるくらいだ。
「もしかして、まだ引きずってるの?」
「なにを?」
「幼馴染の男の子。京治くん、だっけ?」
「…!」
突然出された京治の名前に驚いた花菜は、危うくつまんだ人参を落とすところであった。
今朝の夢といい、今の話といい、今日はやけに彼が出てくる。
「別に京治くんとはそんなんじゃないもん。ただ、昔同じ小学校で仲良しだったってだけで…」
「そのわりには随分慌てた反応だったけど?」
『それはっ、いきなり柚が京治くんの名前を出すからびっくりしたの!」
ふぅん、と呑気に声を漏らしたかと思えば今度は「あ!」と大声をあげた柚。
さすが女バスのエースというべきか、柚の声はどうも無駄に張りがあって響くのでなかなか厄介だ。
「じゃあ、あの人は?青葉城西のバレー部の」
『もしかして、徹先輩?』
「そうそう!」
あぁ これはまた厄介な話になりそうだ。
花菜の予感は的中し、これでもかというほどに柚はあれこれ探ってきた。
「とにかく!徹先輩とは付き合ってないし、京治くんもただの幼馴染なの」
柚の期待するような惚気話は残念ながら持ち合わせていない。
頬を膨らませながら、花菜は空っぽになったお弁当箱を片付け始めた。