第10章 幼馴染の肩書き
「及川?どっかで聞いたことあるな」
木兎が言う。続いて黒尾が、そうだと思い出したように人差し指を立てた。
「もしかしてアレ?こないだの月バリに載ってた─ 及川徹だっけ。宮城の青城の主将」
「はい」
花菜の代わりに影山が答えた。
月バリに載るような優秀な選手。牛島の他にも、花菜の周りにはそんな男がいるというのか。
「で、なんで及川クンが花菜ちゃんの心配を?キミら学校も違うのに。知り合い?」
「知り合いというか先輩というか…」
「俺的には、倒したい相手です」
影山が倒したいと言う男。
花菜の体調不良を知っていて、その上で彼女の心配をしている。
京治は ちらり、と花菜の表情を盗み見る。耳まで紅潮した彼女の姿を見て察した。
花菜の好きな人とはもしかすると、及川徹なのではないかと。
「じゃ、じゃあ今日は先に上がらせてもらいます」
律儀に頭を下げてから花菜は影山と共に体育館を出ていく。
その後ろ姿を京治はどこか複雑な面持ちで見送った。
「影山 少しいいか」
「…梟谷の、」
「赤葦京治だ」
花菜を中に送り届けてきた影山に京治が声をかけた。
外はすっかり暗い。体育館をつなぐ渡り廊下の一角で、ふたりのセッターが向かい合う。
影山とこうして面と向かって話をするのはこれが初めてである。
「花菜さんから聞きました。幼馴染、なんですよね」
「あぁ。花菜が東京に住んでたとき同じ小学校に通ってたんだ」