第9章 変わろう
京治の背中をバシバシと叩きながら木兎が言った。
性格は真逆なふたりだが、これが逆に梟谷のバランスを上手く取っているのだろうと花菜は思う。
「皆さんはこれからどんな練習をするんですか?」
「スパイク練習だ!赤葦ートス上げてくれよ」
「俺は構いませんけど、木兎さんはいいんですか?ただスパイク打つだけなんて少し生ぬるい気がしますけど」
「確かにその通りだ」
京治の言葉に納得した木兎はよし、と短く声を上げて黒尾の肩をボンと叩く。
「黒尾!ブロック飛んでくれ!」
「やだ」
「なァんでだよ!?」
やいやいと騒ぐ姿だけ見ればとても強豪のエースには思えない。
京治も苦労しているのだな、なんて花菜が呑気に思っていると、ちょうど体育館の外を通りかかった人物に黒尾が声をかけた。
「あーちょっとそこの。烏野の…あ…メガネの」
「月島くん!」
「あ、結城先輩。お疲れ様です」
黒尾が声をかけたのは烏野の1年、月島蛍だった。
花菜が彼の名前を呼ぶと月島はタオルで汗を拭いながらその場で立ち止まった。
「ちょっとブロック飛んでくんない?」
そんな黒尾の誘いに月島はあー、と軽い笑みを浮かべる。
「僕もう上がるので失礼しまーす」
「「何っ」」
月島の答えに木兎と黒尾は揃って肩を揺らした。
居残り嫌いの彼が進んで自主練に参加するとは初めから思っていなかったが、流石に強豪二校の主将の誘いなら乗るのではないかと花菜は僅かに期待していた。
けれどその考えは甘かったようだ。
実際の月島はまるで悩む仕草もなくきっぱりと自主練を断ってしまったのだから。