第10章 果てる
私が柱になって数年後に彼は柱になった。年が近いからと手合わせを頼まれた。
一つ年下の彼は、人殺しと疑われたがそれは全て鬼のせいであると認められた。
「……もうよろしいでしょうか。そろそろ帰らなければ。」
彼は肩で息をしている。
私はにっこり笑った。
「疲れたでしょう、お疲れ様でした。」
彼は私に一撃も与えることはなかった。さすがに柱になりたてですもの。
「……一つ…聞いてもよろしいか」
「何ですか」
体も大きいし、きっとすぐに良い剣士になりますね。羨ましいです。
「あなたの罪を聞いた…あなたも、鬼のせいではないのか…」
「……」
まぁ。
誰も触れてこない私の罪について聞いてくるだなんて。なかなか、良い新人ですね。度胸があるというか。
「いいえ。私の場合、証拠も消され被害者の死亡届もきちんと出されてしまって、私の存在も消されたので警察だろうが何だろうがもう私を裁けないのですよ。」
そう。全て、全て母がやった。母が罪を隠蔽してしまった。私は人を殺してしまったと然るべき場所へ行っても、証拠も何もないために妄言を吐いただけになってしまう。
「お館様が隊士を殺されたあなたを許すはずがない…何かあったのではないか」
……なかなか鋭いですね。
「罪のない罪を被り何がしたい?贖罪にも何もならぬと言うのに。」
「すみません、君の言葉は不快です。」
「……ならば聞こう。なぜ人殺しだなんて汚名を着せられている?」
目の見えない彼の言葉に、私は負けました。私に一撃も攻撃できない彼に、私、負けたんです。
全て話してしまいました。
全て。なぜ父を殺したのか。なぜ私の罪はないことになったのか。隊士を斬らねばならなかったのか。
「あの隊士はまだ鬼ではありませんでした。」
「だが…放っておけば鬼になった……」
「そうですね。ですが私は人間を二人も殺してしまった。」
私は刀に手を添えた。
人を救う職でありながら、私は大変なことに手を染めた。
「…あなたに何かしらの素質があったのだろう。」
「そんなものありませんよ。」
「…でなければ、下弦を斬ることはできない……ただの子供が、それはできない…。」
彼は言いきった。