第10章 果てる
桃を食べ終わり、リビングから移動して私は物置部屋の窓を開けた。
実弥も窓を開けた。
「ねぇ実弥、私、前世から逃げられないみたい」
「……」
実弥は黙っていた。
「……でも、大丈夫です。」
私はにっこり笑った。
「心配してくれてありがとう、不死川くん。もう大丈夫です。」
「…嘘だ。」
「いいえ。」
彼はうつむいていました。
「…んでだよ。」
窓越しでなければ、胸ぐらをつかまれていたでしょう。そんな気迫です。
「何で忘れねえ…!!何で思い出しやがった!!何でどんどん記憶が戻ってんだよ…ッ!!!」
「……」
「死ぬのが…無念だって……泣くくらいならよォ…」
不死川くんはドン!と窓枠を叩く。
「……今は笑って生きろよ…!」
私は相変わらず笑っていました。
「…やはり、あの手は君だったのですね。」
最後。
前世の最後の、初めての涙をぬぐってくれたあの優しく暖かい手。あの気配、あの感触。忘れるものか。
「ごめんなさい。君が何かを言っていたのはわかったのですが、あの時目も見えず耳も聞こえない状態でした。ごめんなさい。」
「謝ってんじゃねえ!!」
不死川くんがまた窓枠を叩く。
「……俺は…何度だって後悔すんだ、お前の死に際も何回だって夢に見た。涙をふくしかなかったんだ。だから、今は、あんたがすぐ側にいて、俺は助けてやれるんだ。
あんたがどれだけ俺のことを忘れて、俺に貸したものを忘れても、俺はあんたを覚えてる。
悪いのかよ、幸せに、前世なんて忘れろって、悪いことなのかよ……!」
不死川くんが言う。
私は笑ったままでした。
「……わからないんだ、実弥。」
私の声はか細くて。
今にも泣きそうな。
「私、今、どんな顔で、どんな言葉で、どんな動作で、何をすべきなのか、わからないんだ」
そう言ったところまでは覚えてる。
でも、いつの間にか私はベッドの中にいて。
お風呂も入って歯も磨いていて。
実弥とどう話を終わらせたのか、覚えていなかった。