第10章 果てる
「何が言いたいんです」
私は笑いながら語気を強めた。
「……生まれ持った才能か…あなたは驚くほど鬼狩りに適している。」
自覚がないわけではなく。
なぜあのとき下弦を斬れたのか。なぜためらいもなく隊士を斬り落としたのか。
「……気配ですよ」
「…気配」
「わかるんですよ。何となく。何となくね。今も私の周りにうごめいています。」
物心ついたときから何と言うか、周りのものに敏感だった。
いつも気配を側に感じていた。そのせいで眠れない夜もあった。
「鬼がどこにいるだとか、鬼が嫌がることだとか、鬼の術の弱点だとか、私はなんだかわかってしまう。」
「……」
「気味が悪いでしょう。おかげで誰も寄り付きません。私、手合わせであなたが次どう動くのかといったこともわかるんですもの。」
そこで気味が悪いと言ってくれれば良かったのに。
「……あなたの悪いところだ。いつも自分を見放す。」
「………。やめてください。」
「……。」
私は笑っていた。笑う以外のことができないから。
「……私…」
もう顔があがらない。
「……過去の私を、…認められないの。」
丸裸にされた。心も。過去も。彼に。
「……やり直したって、私、父を殺すわ。何度だって。憎くて、憎くて、たまらないんだもの。隊士だって。鬼になる前に、何度泣いて、やめてくれって言われても、私は殺すんだわ。」
私は笑っていた。
「私、あなたとは違うわ。人殺しだもの。望んで人を殺すんだもの。」
彼は私に大きな手を差し出した。
私はその手を握った。
「馬鹿みたいに泣けたなら、私今泣いているわ。」
「…泣けば良い。」
「笑うことしか、できないもの。」
彼の手は暖かくて。安心した。
「ありがとう、悲鳴嶼くん」