第9章 親友よ
片付け終え、伊黒くんと昇降口に向かう。
「結局、宇随先輩なんだったのかな」
「…サボりじゃないか」
いや、あの人はそんなことをしない。伊黒くんも思うのか自分で言いつついまいち納得していない様子。
上履きと下足を取り替えていると、昇降口に人がきた。
実弥だ。
どくん、と心臓が跳ねた。
…あまり感じたことのない、嫌な跳ね方をした。
「不死川か」
「おぉ、伊黒に霧雨」
私は特に反応しなかった。ローファーに乱暴にかかとをつっこんだ。
「美術部か。あの輩先輩はどうしたぁ。」
「知らん。急に帰った。特別学級の先輩の名前を聞いたとたん……。何だったか。ひめ…。」
そこから先がでないらしい。
「悲鳴嶼行冥」
私は気づけばそう口にしていた。早口で乱暴な口調だった。
「そうだ。その名前を聞いたとたんまだいるのかとか言って帰っていった。おかげで片付けをさせられる羽目になった。見ろ、霧雨も怒っている。」
伊黒くんにそう言われてドキッとした。
……怒ってるの…私…?
いや、違う。この感情は…。
「……そうか」
実弥が下駄箱に向かう。
「帰るか、霧雨」
「うん…。バイバイ、不死川くん。」
実弥が軽く手をあげる。
「どういう人なんだ、その悲鳴嶼というのは」
「…体の大きな人だったよ」
私はそうとしかいえなかった。
目が見えないことには触れなかった。
「霧雨、一つ聞きたいんだが」
伊黒くんが立ち止まる。
あぁ、赤信号だ。危ない。気づいていなかった。
「俺たち、どこかで会ったことないか?」
「どこかって?」
「この学園にくる前に…気のせいか。何だか、俺はお前を見たことがある気がしたんだが。」
伊黒くんは首を傾げながら、私にまたなと手を振った。
彼は電車に乗らないと行けないので帰り道が全然違った。