第9章 親友よ
「手をお借りしてもいいですか?」
すると悲鳴嶼先輩は右の手のひらを差し出した。
ていうか大きいなこの人。180…190センチ……?それくらいあるかなぁ。それ以上かも。
大きな手の上に筆を置く。
「美術部のシールが貼ってあります。わかりますか?特別学級の筆には何も貼っていないようなので区別できますね。」
私は悲鳴嶼先輩がの指を追ってシールに触れさせてみた。
「あぁ、それならわかる。」
「良かったです。」
一目見れば、美術部の筆がどれかなんてすぐにわかる。
でも悲鳴嶼先輩が折角探してくれているんだから。
一緒に探したかった。
「これでいいか?」
「はい。三本私が持っています。」
先輩から二本受け取り、これで五本揃った。
「ありがとうございました、では失礼します。」
「あぁ。……気を遣ってくれたこと、感謝する。」
最後にそう言われた。扉を閉めていたときだったのでピシャリと閉めた瞬間扉の向こうから聞こえた。
ここで開けていいえとんでも!!とか言うのは不自然だし、いいか。
私は美術室に戻って筆を先輩に渡した。
「先輩、もめたそうですね。」
「ちっ、聞いたのかよ…何か言ってたか?あのくそ教師。」
「いえ…いたのは悲鳴嶼っていう高等部の先輩でした。」
そう言うと、宇随先輩は筆を止めた。キャンバスの絵はそろそろ完成しそうだ。この前言っていた通りに空の絵だ。
「……それ、って」
「?どうしました?知ってる人なんですか?」
側にいた伊黒くんも何事かと手を止める。
「まだいたか!?その人!」
「い、いましたけど…」
「悪い!帰るわッ!」
宇随先輩が鞄をひっつかみ、走り去っていく。パレットも筆も水も放っていくなんてらしくない。
「ちょっと、先輩ッ!」
私は追いかけようとした。けれど、伊黒くんに肩をつかまれた。
「一人で片付けたくはない」
そう言われ、ごもっともだと思った。
宇随先輩がド派手にちらかしたものは彼だけでは片付けられないだろう。