第7章 自覚
幽霊伝説は本当だった。私は腰を抜かして立てなくなった。
「…おねしゃ?」
男の子が目を覚ます。
私がそちらに顔を向けようとしたところで異変に気づいた。
トンネルの数メートル先にカラーコーンがたち、黄色のテープが張られ、警察官が立っていた。
全く状況が飲み込めない。
「おかしゃん!!!おとしゃん!!!にしゃん!!!」
むいちろくんが顔を輝かせる。テープの向こう側にそれらしき人たちがいた。双子なのか、そっくりな男の子に目がいった。
「君達!大丈夫かい??」
警察官の人が私に声をかけた。
「怪我してるのかい?」
私の足を見てくる。
「………いえ…」
腰が抜けただけだ。
「君達、三日間行方不明だったんだよ。わかるかい?」
「………え…?」
何を言っているのかわからない。そうこうしているうちにむいちろくんが私の手から離れた。
「おかしゃーん!」
「無一郎ッ!!!」
あぁ、無一郎って名前なんだ。むいちろって変な名前だなあって思ってた。
黄色テープの向こうで抱き合う親子に少し羨ましさを感じた。
「…すみません、私、よくわかりません…。私、このトンネルを通って、帰ろうとしたんです。そうしたらあの男の子が道で泣いていて…。歩いたんです、一緒に、なんか、全然目的地につかないなって、思ってたら…。えぇと、その…上手くいえないんですけど。」
「……そうか…」
まとまりのない話をする私をよそに警察官は不気味そうにトンネルを見つめた。
「たまーにあるんだ、このトンネル。無事で良かった。」
黄色テープの向こう側に私の家族は見えない。
私は地面にへたりこんだままうつむいた。
「おねしゃーん!!」
無一郎くんが私を呼ぶ。
『師範』
頭の中で謎の声が響いた。
「『ありがとう』」
声が重なる。
私はボーッとその子を見ていた。
警察官と話すあの母親達も。
何とも不思議な体験だった。