第6章 花開く
それは、その日の放課後に起こった。
難しいことではない。
難しいことではないはずだ。だが初体験というのは緊張する。
「好きです、つきあって欲しい」
そう言われて戸惑う。授業が終わるやいなや校舎裏に呼ばれた。教室で見知らぬ人に呼ばれて怖かった。告白。生まれて初めて。いや、でも。でも。でもでもでも。
「あの…い、言い辛いんですけど、その…」
息を吸い込む。
「ど…どちら様、でしょうか…」
変な汗が止まらない。制服から見て高等部の先輩。吹奏楽部にも将棋部にも、もちろん美術部にもいない。
つまり全く知らない人から告白されたのだ。
「え…わからない?」
「……お話ししたこと、ありましたか…?」
「いや…ないけど……。」
話が見えない。私はどうしたらいいのかわからずスカートの裾をぎゅっと握った。
「えと…ごめんなさい、部活あるのでもう行きます」
「あ…うん」
私は逃げるように去った。
吹奏楽部に行くと、同学年の女の子たちがわっと私に集まった。
「ねえ!呼び出されてたよね!?告白でしょ!?付き合うの!?」
「どうだった!?」
私は素直に答えた。
「どうって…。断ってきた……誰かわかんなかったし…。」
「「「ええええええええええー!?」」」
皆が叫ぶ。私は咄嗟に耳を塞いだ。
「何で~!?もったいない!」
「超有名だよ!?サッカー部のキャプテンの!三年生の!!」
そう言われてもわからない。
「サッカー部なんて…友達もいないんだからわかんないよぉ…。」
「あの先輩目当てに皆試合見に行ったりするんだよ!?」
「ちゃんも行ったことあるでしょ!?」
「ないよ…」
「「「嘘おおおおおおおお!?」」」
また皆が叫ぶ。
私はまた耳を塞いだ。