第6章 花開く
胡蝶さんの周りには蝶が飛ぶ。
私はその様子を見るのが好きだった。
「霧雨さん」
記憶にあるのは怒りの顔。
記憶にあるのは悲しみの声。
記憶にあるのは涙。
記憶にあるのは笑顔以外。
記憶にあるのは苦しみ。
「私、信じません。」
「何をですか」
私はいつも通り薄ら笑いを張りつけていた。
確か、あの手合わせ中のことですかね。
「霧雨さんが人を殺しただなんて信じません。霧雨さん、何か隠していらっしゃるんでしょう。」
「信じるも信じないもご自由です。ですが私は父を殺し隊士を殺しました。真実です。」
胡蝶さんの笑顔なんてほとんど見たことがないのではないか。皆には向けたその顔を、私には向けなかった。
「どうしてそんなに悲しい人なんでしょう。どうして自らを追い詰めるのでしょう。あなたを見ていると私は苦しくなるのです。
霧雨さん、私、信じません。もし本当ならばあなたの罪は許せないけれど、あなたは好きだもの。」
「胡蝶さん」
私は相変わらず薄ら笑いのまま。
あなたみたいに上手に笑えないものですから。
「………ありがとうございます」
「……」
「私に寄り添ってくれる人がいるだけで…惨めで……何より愚かしく罪深い私は…」
胡蝶さんは笑わない。
私は人を笑わせる術を知らない。
「ほんの少し……罪も罰も忘れられる…」
私は馬鹿でした。
忘れてはいけない罪なのに、忘れさせてくれる彼女のことが好きでした。
なぜか彼女の前では普通の女の子でいられる気がしました。同性だったからでしょうか。
蝶が舞うとあの子がやって来る。
でもある日、蝶は堕ちたのでした。
私の烏が手紙をくれました。本部からの。
私は笑った。
あの会話が最後だったんです。あれが最後でした。手合わせももっとしたかった。次は私の速度に追い付くって、あの子言ったんです。
次はいつですか。
もうないのですか。
逝かないで。
友達でも何でもないのに、最後に、あんなこと言い残して先に逝かないでください。