第6章 花開く
私が答えあぐねていると、胡蝶さんの後ろで棚がぐらついた。
え、と思うと同時に体が動いた。ほら、私の方が速い。さっきのひと悶着で古い倉庫にガタがきたのでしょう。
「垂、天遠……」
…またしても無剣。いけるか。
「が、す、…みぃいいいいいぃぃ……!!」
棚を何とかおさえた。けど。垂天遠霞は突き技。一瞬の力で倒れてきた棚を突き返そうとしたがまた倒れてきた。
「こ…胡蝶さん!!今のうちに……ぃ…!」
「は、はい!」
胡蝶さんが棚の下から脱出する。
頑張れ。頑張れ。私できる。できるできる押し返せる!!押し返せるから頑張れ!!!
もう一回。
全集中の呼吸、常中…!!
「垂天遠」
手を離す。
ありったけの力で。
「がすみいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」
バシインッ!!!と音がする。手が痛い。戻れ。戻れ。
棚がかたん、と音をたてて元の位置に戻った。
しかし。
ベキン…ベキ、ベキ
……ミシミシミシ、ミシミシミシミシ
…パキン
私は開いた口が塞がらなかった。
ガラガラガラガラガラガラ
なんて、ありきたりな音とともに棚が崩れた。
「うぉーい、何かすげえ音が……って、はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」
入ってきた宇随先輩が叫ぶ。
そりゃそうだろう。
倉庫内はめちゃくちゃだ。
「あ、こ、こここ、これ」
私が振り返る。胡蝶さんが青ざめている。多分、私も。
「おい、どうし……」
実弥まで。
言い訳。言い訳。考えないと。何か。どうしよう。
「おい、ッ!!!」
学校では名字で呼びあっていたのに。それを忘れるほど彼は動揺して…。
「大丈夫か!?怪我は!?」
そう心配してきた。
私は自分の両の手のひらを差し出した。
そこには何やら赤い痕。
続いて崩れた棚を指差す。凹んでめり込んだ金属製の棚。
「……やってしまいました」
私が言うと、二人は黙って頭を抱えた。
このことは誰も口外せず、古くなった棚が悪かったとのことで倉庫内の収納棚は全て新品になり。
その棚の下敷きになった粉々の陸上部のポールも慎重された。不自然なくらいバラバラになり、今でも欠けた部品が出てくるんだとかこないんだとか。