第58章 誰かの記憶ー道は消えるー
「不死川」
俺はしゃがんだ。雨が容赦なく当たる。
雨は降る。
それは、キリキリちゃんが生きていようが、死んでいようが関係なく。
「墓つくるの手伝え。」
「………」
「それ終わったら受け取ったるわ。柱が忙しいんはあの子見てたからわかるし。けど、暇あったら手伝え。」
何となく思い付いた。
「眠る場所がないのは、困るやろ」
俺が言うと不死川は頷いたあとに立ち上がった。
「やんだな」
空が晴れる。
それは、誰が死のうと生きようとも。
「お前、名前は?」
「アマモリ。」
「ん。今日は任務ねえから手伝えるぜ。」
「ほな、やるか。」
「お前、そんなひょろいのにできるのかよ。」
不死川が言う。
俺がひょろいのは、生まれつき。きっと母親のお腹の中で、ろくなもん食べてこおへんかったんやろな。キリキリちゃんは色んなもん土産に持ってきて精一杯食べさせてくれたけど。
「ハッ、お前こそ。筋肉ばっかで頭働かんとかないやろな。」
「ほざけ。筋肉だけでなく脳みそもスッカスカとか笑えねえからやめろよ。」
俺達は晴れた太陽の下、作業に取りかかった。
「太陽の当たるとこがええな。」
「ん。」
むさ苦しい男が二人であーでもないこーでもないと言いながら手を進める。
その途中で、ポタリポタリと、水が垂れた。
それが雨でもなく、自分の目から出てると気づいたのはだいぶあとだった。
雨は誰かが生きていようが、死んでいようが降る。
涙は、誰かが死んだときに流れる。
不死川が黙って作業を進める。不死川は泣かない。が、ぴたりと話さなくなった。
蝉も鳴かない、そんな日のこと。銀杏も舞わない、そんな日のこと。
夏が終わり、秋も過ぎ去り、冬がやってくる寒空の下。
「霧雨さんの墓つくるとか、思ってもみなかった」
「それ、死ぬって思わんかったってこと?」
不死川は黙って頷いた。
「死ぬんだなあ、どんな人でも…」
どこか寂しそうに呟いた。