第58章 誰かの記憶ー道は消えるー
「ああ、嫌いだね。大嫌いだ。」
不死川は、独り言のように言った。
「あの人の、こういうところが、大嫌いだ。」
“こういうところ”
不死川はそこで黙った。
キリキリちゃん。
可愛い可愛い女の子。ちょっと変わってて、ニコニコしてて、嫌われもん。
けど、俺は好きやった。
一緒にいると落ち着くんや。なんか、ほんまに、あの子がいると安心した。
来てくれる度、ほんまに嬉しかった。
俺が言うこと全部否定せえへん。里のもんに睨まれてる俺にだって笑かけてくれる。『笑うこと以外できないのです』なんて言うけど、ほんまの笑顔かそうじゃないかくらいわかる。
ほんまの笑顔を最近は見せてくれて、笑ってくれるのがほんまに嬉しくて。
“家族”なんてもんがいたら、こんなに楽しいんかなって。キリキリちゃんが、俺の出したお茶飲んで、美味しいって言って。
なあ、そんなんで良かったんとちゃうんか。
多くは望まへん。
でも、生きててくれな、そんな些細なこともなんもできひん。
“こういうところ”が嫌い、か。キリキリちゃんはニコニコ笑って、何でもないようなふりして。隠して、隠して、隠して。
彼女の秘密の全てが暴かれたときには、もういない。
『アマモリくん、私ね、子供がいたんですよ。』
いない。
『笑っていないと、あの子が泣いてしまうんじゃないかって。』
俺は泣いたことなんてない。
『だからですかねぇ。笑ってしまうのです。』
キリキリちゃん。
“こういうところ”、大大大っっっ嫌いや。
隠して、隠して、隠して、
暴かれたときには、もういない。
いなくなったら、なんもできひんのに。
ほんまに、死んでしまったん?
刀なんていらんよ。君にあげたんよ。