第56章 以上になります、裁判長
気付けば立ち止まって私は泣いていた。
道の真ん中で泣くなんて何をしているんだろう。
良かった。元旦の閑散としたこの寂しい通りには人がいない。
けど。
隣を歩く実弥も立ち止まって。
その横顔に、涙が垂れているのがわかった。
「…実弥…今…不死川くんが…」
「……俺も…霧雨さんが…」
私たちは顔を見合わせた。
「……私…ずっと、家族とか、前世とか、秘密とか、色んなことにがんじがらめになって、自分がすごく不安定で、霞の中にいるようだった。」
涙をぬぐって、私は彼に伝えた。
「でもね、私の霞は晴れたの。実弥が晴らしてくれたんだよ。」
そう言うと、彼も涙をぬぐった。
寂しいなあ。
また風が吹いた。風と共に、何かが吹き飛んでいく気がした。
不死川くんが、はるか遠くに行ってしまう。
もう、いないあなた。
もう、会えないあなた。
さようなら
さようなら
「私、実弥が大好きだよ」
砂のように、儚く。
彼は消えてしまって。
かわりに、実弥が目の前にいた。
「……だからね、今日はありがとうって言いたかった…ッ!」
実弥が突然、がっと私の頭に手をのせ、グイッと力をいれてきた。そのため、私の顔は下に向いてしまった。
「ちょっ!ちょっと!!何すんの!?」
「バカタレ…」
それはそれは、とても小さな…小さな小さな声だった。
顔をあげようにもあげられない。馬鹿力め。
「お前、その、やめろ」
「声ちっさ…え?何?何が起きてるわけ??」
「うるせえ…お前……お前よお、本当に…」
そうこうしているうちに、力が抜けた。頭があげられるようになった。
実弥が顔を覆っていて表情は見えない。
けれど、耳が赤いのが見えた。
「……あー…その…私からは、以上になります…裁判長……」
「よォし……これにて閉廷だ、帰るぞ」
「……ッス!!!」
何だか、よくわからない展開になってしまったがひとまずそこで帰ることになり、進路を変更して家へ向かった。