第56章 以上になります、裁判長
結局神社から遠ざかり、私たちは神社の周辺を歩いた。
「……お前…今日どういうつもりで来た?」
実弥が隣で私の顔を見ずに聞いてきた。
彼から緊張が感じられる。
「……私は…」
風が吹く。
元旦の風は、懐かしいものを連れてきた。
周りのものが消えて、真っ白な霞に全身を包まれたような、そんな不思議な世界に私はいた。
私は隊服を着ていた。刀も持っている。背丈も違う。
まごうことなき、前世の私だ。
風がびゅうびゅう吹いて、髪がバサバサなびいて鬱陶しい。
髪が視界を遮るので、私はそれを手ではらった。
『霧雨さん』
その時、気配もなく。
彼が現れた。
『不死川くん…?』
思わぬ人物に驚きました。
けれど、私の知る彼ではありませんでした。
私の知る彼より、大きくて、傷が多くて。
成長した彼がそこにいました。彼も隊服を着ていました。
『どうだい、俺の風は』
信じられないほど優しい声でした。
いえ、私が気づかなかっただけで、彼は優しい声で話す人ではなかったでしょうか。
『………少し、強い気がします…』
『そうかい』
彼は顔をくしゃくしゃにして笑いました。
その笑顔が、たまらなく私には嬉しいものでした。
だって、私は、誰かの笑顔のために闘っていたのですから。
『良い風です』
私も心から笑いました
仏頂面で、好戦的で、敵対心を私に向けた不死川くん。
そんな君が私の中で薄れていくんです。記憶から遠くなるんです。それがとても悲しくて心苦しいのです。
『霧雨さん、幸せになれよ』
『不死川くん…』
『俺は、泣いたあんたが笑顔になるたび、嬉しくて仕方ねえ。』
『私も、君の笑顔が嬉しいです。』
『…こんなときになって、やっと気が合うんだな、俺たち』
不死川くんはまた笑いました。
『霧雨さん、あんたの霞は晴れたかい』
『…はい』
私たちは笑いました。
そうしているうちに、どんどんその世界はぼやけていきました。