第56章 以上になります、裁判長
『前世の記憶は繰り返す。』
『遥か昔の祖先の記憶さえ、心に宿りだす。』
誰だっけ。
誰から聞いたんだっけ。
『だから、いつかお前さんのことを遠い未来の誰かが思い出すやもしれんな。』
……誰から聞いたんだっけ…。
案の定、私は寝坊した。
超特急で準備をすまし、まだ帰らないおじいちゃんとおばあちゃんに置き手紙を書いて家を飛び出した。
マフラーがばっさばさと音をたててひるがえる。コートの前を止める時間もなく、色々とばさばさいわせながら全速力で走った。
時間の約束なんてしていなかったけれど、さすがにお昼の一時を越えてたらこれもう遅刻でしょうよ。
私は死ぬ気で走った。けれど、私の全力疾走なんて高々知れている。
私は人混みのなかを懸命に探した。
どこ、どこだ。
実弥は、どこ。
神社にいるってことしか聞いてない。神社のどことか聞いてない。
どこにいるの、実弥。どこなの。
「おい」
鳥居の下に来たあたりで、トン、と軽く肩を叩かれた。
振り向く瞬間、前世に戻ったようなあの感覚に陥った。
不死川くんが、優しい微笑みで、今にも消えてしまいそうなほど儚くて…。
けれど、そんな彼はすぐに消えた。
仏頂面の実弥がそこにいた。
「…ッあのね」
私は息も絶え絶えに言葉を発した。
「私、初詣行けないの」
実弥が目を見開く。
「一応……喪中、だから」
そう言うと、実弥は少し微笑んで、大きなため息をついてしゃがみこんだ。
「…っんとにお前は……」
「えっ、何?ごめんね、起きたらお昼だったの…」
「わかるわ、アホ。寝癖ついてんぞ。」
実弥はしゃがんだまま、満面の笑みを浮かべた。
…何だか、機嫌が良いらしい。