第54章 言葉が邪魔をするから
「前世じゃあ、私が殺したのに」
自嘲気味に笑った。
「……私が殺さなくても死んじゃったよ…」
ずっと父親が憎くて憎くてたまらなかった。殺してやりたかったし、前世では殺した。
父親が何だ。父親が偉いのか。どんなに酷いことをされても子供は言うことを聞かないといけないのか。
だからって。
だからって、死ねだなんて。
私、願ったこともないのに。
「父さんが死んだって、悲しくもなんともないの。でも、嬉しくもないの。父さんにお別れを言いに、母さんのところに行ったけど、母さんは私を拒んだから、私も…もう二度と会わないって。」
ペラペラと口だけが動いた。
「…おじいちゃんとおばあちゃんとも…気まずくて……」
実弥に何を話してるんだろうか、私は。
どうしようもないじゃないか。
嘘をつくのが嫌だという私個人の都合だ。また私は迷惑をかける。
「………お前は…親父さんが死んで、悲しくないんだろ。」
「ないよ。ないから悲しいの。私、とんでもない人間だよ。」
「アホ」
実弥が私の顔を無理やり上に向けた。
首が痛い。何てことをするんだ。
「…俺の親父は、前世じゃひどいやつだったんだ。」
実弥が話す。
その顔は真剣で。
「親父は恨みを買われて刺されて死んだ。…俺はそれで当然だと思ったんだ。悲しくもなんともなかったね。」
「………」
実弥の話ではない。不死川くんの話。
「死んだ人間は生き返らねえんだ。…俺たちはそれをよく知ってる。」
転生したって。記憶があったって。鬼になったって。
私たちは生き返った訳じゃない。前世の私たちはとっく死んで、もうどこにもいない。
「………そういうときは、どうすんのかは霧雨さんが俺に教えてくれたんだろうが。」
実弥の言葉にハッとした。
そうだ。
私たちは、生き返らない。死んだらおしまい。続きはない。
「…死んだ人たちを…振り返らないで……前向いて……」
前世の私が、どこかで微笑んでいるような。
そんな感覚があった。
「『生きている人を想う』」
前世の私が教えてくれた。
私に優しく話しかけてくれているように思えた。