第54章 言葉が邪魔をするから
「…まぁ、何もねえならいいよ。様子見てこいって親に言われただけだしなァ」
実弥は立ち上がった。
(どうしよう)
私は思考を巡らせた。
(いいのかな。本当にいいのかな。こんなに嘘ばかりついて。嘘で塗り固めて。この嘘、私は貫き通せる?ずっと内緒にできるのかな。よりにもよって、一番近くにいる実弥に…私はまた……。)
頭がごちゃごちゃとうるさくて、冷静になれなくて。そういうとき、人間思いもよらない行動をとる。私は体に命令をしていないのに、ごちゃごちゃの思考を抱えた脳が勝手に体に命令をする。
実弥から戸惑いの感情が見えた。
私は、実弥の服の裾を遠慮がちにつかんでいた。
「………んだよ」
実弥が振り返った。
「いやごめん、何でも…な……い…」
俯いた。声も弱くなってしまった。
あぁ、今日は特別弱い。お腹が痛いせいだ。きっとそう。
「………どうしたァ」
実弥の声が優しいからだ。
前世では私は誰にも頼れなかった。けれど、今は違う。皆が助けてくれるから。
だから、私は弱くなる。
けれど。
きっとそれは違うんだろうな。私は前世で色んな人に支えられていたのに。それに気づかないで、嘘をつき続けた。
あぁ、なんて愚かなんだろう。
実弥の服から手を離す。
そのまま両手で顔を覆った。
「………父さんが…」
「…ッ!!!」
その名を口にしたとたん、実弥から驚きと怒りの感情を感じた。
それも一瞬だった。
「死んだ」
そう口に出せば簡単だった。
「……何で」
「病気」
「………」
実弥は言葉を失っていた。