第54章 言葉が邪魔をするから
「おい」
「ふぇ」
額を叩かれて目を覚ました。
私の眼前には…。
何と実弥がいた。
とっさに起き上がると、相変わらずお腹は痛く、その痛みが私を起こしてくれた。
実弥が、私の家にいると言うことは。それすなわち…。
「不法侵入だーーーーーーーッ!!!!!」
「あぁ!?何回ピンポン押しても出てこねえから心配したんだろうがッ!!!そんなこと言うなら鍵の一つもしめやがれ!!窓から玄関から勝手口までぜーんぶ開いてたぞォッ!!!」
「お巡りさんこちらです!!」
「話を聞けェッ!!!」
実弥が私の頬を引っ張る。痛い痛い。勘弁してくれ。
「はぁ…じいさんとばあさんいねえのか。」
「え、うん。いないよ。なにか用事だった?」
「バカタレェ、お前が最近ずっと一人でいるからうちの親が心配してんだよ。」
そう言われ、おじいちゃん達が帰ってこなかった日の夜に家を飛び出し、実弥のお父さんと会ったことを思い出した。
「明日には帰ってくるから平気だよ。それに作り起きもしてくれたからご飯にも困らないし。」
「あーそうかい。…明日だっつっても元旦じゃねえか。」
「そうだね…。明日のいつ帰ってくるんだろ。」
私は体を起こした。実弥がさりげなくとなりに座った。
「………じいさんとばあさん、何かあったのか」
そう聞いてきた。
「別に。お出かけだよ。」
前世に懲りず、私はまた嘘を重ねる。隠して、隠して、隠すの。嘘をついてでも。
そうやって、私は私を守る。守る価値もない私を、私は守らないといけない。そうしないと私は私でいられなくなるから。
「そうかい。ずいぶん長いんだな。」
「うん。」
「お前、夜出歩くなよ。出たら俺ん家から丸見えだからな。俺の家族が心配すんだよ。」
「わかってるよ。」
私はそれしか言えなかった。
心が痛い。
前世では息を吐くように嘘をついていたのに。
今では、罪悪感を伴う。