第54章 言葉が邪魔をするから
ていうか推測したんじゃなかったのかよ!!
マフラー追いかけるなんて馬鹿馬鹿しい理由だとは思わなかったって!?まあそうでしょうねっ!!
『いや、はぁ、元気そうで良かった』
はぁって息ついてんじゃん。笑いつかれてんじゃん。
『本来なら会いたかったのですが、こうして声が聞けただけでも良かった。』
「……ごめんなさい…私…」
『あぁ、いえ。できないことはできないで良いと思うのですよ。私も、歩くことができないのですから。』
氷雨くんが言う。
…そっか。氷雨くんは前世で足を斬りおとされた記憶から…。
「氷雨くん、あのね。あの…こんなこと言うのも、あれなんですけど…。歩かなくても、氷雨くんは氷雨くんだなあって思ってますからね。」
とっさにそう言うと、向こう側からまた声が消えた。
『…ふっ』
……また笑ってやがるなコイツ。
『そうですね。僕は僕です。』
「…すみません、幼稚園児みたいなこと言って。」
『いいえ。元気が出ましたよ。』
恥ずかしい。
前言撤回したい。消え去りたい。
『あぁ、呼ばれてしまいましたので失礼しますね。またいつかお会いしましょう。』
「はい。忙しいところをありがとうございました。」
そこで電話は切れた。
私はソファに沈みこみ、ただ天井を見上げた。
氷雨くんは不思議な人だ。
全てを予測し、先回りして。頼りになるし、頼りにされてるし。でも怒ると怖くて…そのくせなかなか怒るということをしない。
優しくて、日だまりみたいな微笑みで、あの殺伐とした時代に皆を包み込んでくれた。
願わくば幸せになってほしいのだが。
あぁ、それにしてもお腹が痛い。
考えることが多いせいだ。ごちゃごちゃ頭がやかましいからだ。
私は目を閉じて、何も考えないようにした。