第54章 言葉が邪魔をするから
困った。
私はリビングのソファに体を沈め、目を閉じた。
とても、お腹が痛い。
もうあり得ないくらいにお腹が痛い。
女子として訪れるべきものが訪れる。それは、然るべきこと。
痛みを伴う出血とともに“女の子の日”とやらがやってくるの、何とかならないのだろうか。
それに、今日は父のお葬式だ。通夜は昨晩終わったとおばあちゃんから連絡があった。朝起きたとき、私は両手を合わせてほんの少しだけ神様に祈った。
どうか、父の眠りが安らかでありますように…
そして、その死をいつしか私が見つめる日がきますように、と。
その後にトイレに行き、まさかの事態が発覚して今はお腹の痛みに耐えているということだ。
そうしていると、スマホが鳴った。氷雨くんから電話だ。
「はい、もしもし…」
『おはようございます…おや、元気がないようですね。』
「……体調が良くなくて…」
さすがに真実を言うのは彼に失礼だ。でも、見透かされていそうで怖い…。
「電話できるってことは、式は終わりましたか。」
『えぇ。滞りなく。』
「……。」
氷雨くんは一人で参加しているのだろうか。…家族って、いるのかな。
私はおじいちゃんとおばあちゃんがいるけど…氷雨くんはあの大きな家で一人…。
でも、中学生が一人で暮らすなんてできないから…多分、いるにはいるんだろうけど。
『先日は、余計なことをしてしまいましたか。桜に連絡をいれておいたのですが。』
「あ、いえ。余計なことなんてとんでもない。助かりました。マフラーも無事でしたし。」
『マフラー?』
「?はい。風に吹き飛ばされたマフラー追いかけて川に入ったんで…。」
私がそう言うと、声が聞こえてこなくなった。
『……んっふ、そうですか。』
やっと聞こえたと思ったら震えた声でそれだけ。
………まさか、笑ってる?私は笑われているなでは?しかもんっふって。吹き出してるじゃないですか。