第52章 言葉なんていらない
弁当を食べているうちにおじいちゃん達が帰ってきた。
「、あぁごめんなさい。心細かったでしょう。ごめんなさい。」
おばあちゃんがぎゅっと抱き締めてくれた。おじいちゃんも謝った。
けれど、二人が思うほど私は悲しんじゃいない。それがまた苦しくて、またどんな顔をしたらいいのかわからなかった。
「、これからお父さんの顔、見てやってくれない。」
「…今から?」
「そう。火葬されたら見れなくなってしまうの。」
「火葬」
普段聞かない単語だった。けれど、わからないわけではない。
「……無理せんでいい。」
おじいちゃんは私の反応を見てそう言った。
けれど、これ以上二人にいらぬ気を遣わせたくはない。
「無理なんてしてない。」
私は食いつきぎみに言った。
「……今からだよね。準備する。服これでいい?」
「あ、制服で…」
「わかった」
私は部屋に戻って制服に袖を通した。
…大丈夫だったかな。
私はスマホの画面に自分を写した。
不安そうな顔をしていた。
実の父が死んだと言うのに、私はなんの心配をしているのだろうか。
連れていかれたのはずいぶんと遠い場所で、どこにでもありそうなマンションだった。
一番下の階の端の部屋に連れていかれた。
おばあちゃんがインターホンを押すと、中から懐かしい顔が出てきた。
母さんだった。
「………」
「母さん…」
ずっと会っていなかった。一年間以上。
久しぶりの顔は変わっていなかった。
父が死んだからか悲しみの気配が感じ取れるが、私の顔を見るやいなや怒りや憎しみといった感情へと変わっていった。