第52章 言葉なんていらない
「私、自分がこんなにも薄情だとは思いませんでした。」
素直にそれを打ち明けた。
「どうしよう、私、誰が死んでも、涙一つ出ないような、そんな人間なのかも。」
嗚咽を漏らしながら言うと、氷雨くんは優しく相手をしてくれた。
『いいえ、そんなことはありません。…あなたは人の死の意味を理解しておられる。』
「わかっています。わかっているのに、何も感じないんです。」
『……。私は…おや、何だろう。』
その時、電話の向こうからインターホンが聞こえた。
「あ、ごめんなさい。朝だから忙しいですよね。」
『いえ、電話をしたのは私ですから。…すみません、また会ったときに話しましょうか。』
「はい。」
氷雨くんはあの馬鹿に広い家に一人で住んでいるようなのだった。何か事情があるのだろうけど、聞かなかった。
電話を切ったあと、私は大きなため息を吐き出すと共に涙を拭った。
再びベッドに寝転ぶ。
あぁ、もう。
部活…今日は美術部だっけ?行く気にならない。おじいちゃん達も帰ってくるって言うし。
少しうだうだと考え込んでいるうちに、眠気が押し寄せてきて、私は二度寝した。
昨日の夜はなかなか眠れなかったから、仕方ないのかもしれない。
目が覚めると、もう正午に近かった。
……気配からしてまだおじいちゃん達は帰ってきていないようだ。
(お腹すいた)
…こんな時でも、そう思うのか。
私はパジャマから着替え、顔を洗うために洗面所に向かった。鏡に写る私は、泣き腫らした顔だった。
「ぶっさいく」
鏡の私にそう言った。
顔を洗ったあと、私は泣き顔が元に戻るのを待ってお昼ご飯を買いにコンビニに出かけた。