第52章 言葉なんていらない
私はスニーカーを履いて外に飛び出した。
交番までってこんなに遠かった?
ああ、何でこんなにドキドキするんだろう。嫌な予感がする。今にも泣いてしまいそうだ。足が固まってしまったみたい。走ることが難しい。
足はすぐに止まった。
それと同時に、スマホが鳴った。
おじいちゃんからの着信だった。
「っもしもし!?おじいちゃん今どこにいるの!?」
私の声は涙声だった。
電話の向こうから、おじいちゃんの声が聞こえた。
『すまない、』
「私はいいよ、二人とも…何ともないんだよね…?」
『…おじいちゃんとおばあちゃんは何ともないよ。』
そして、おじいちゃんは続けた。
『、よく…よく、聞いてくれ、な。』
「どうしたの?」
おじいちゃんの声が聞けて安心したはずなのに、どうしてかずっと嫌な予感がしていた。
『父さんが、亡くなったよ』
父親は病気だった。それが分かったのは、私を襲った日、文化祭の一週間前。取り返しのつかない段階だった。あと数年の命だった。それでも体を騙しに騙して、何とか生きていた。
けれど。
けれど、死んだ。
今夜。私が外に飛び出した時間だ。
私はずるずると、外にも関わらずへたり込んだ。
『すまない、実はずっと前から知っていたんだ。ほら、一度帰りの遅い日があっただろう。あの日は見舞いに行っていたんだ。』
「……。」
実弥の家で晩ご飯を食べた時か。友達が倒れたって聞いたのに。
『お前に言うか言わないか…迷っていたんだ。けれど、言うなと、お前の母さんが…。本当にすまない。』
私はとぼけた返事しかできず、おじいちゃんも気が動転しているらしかった。
「悪いけど、今日は…帰れないんだ。しっかり戸締りをして、な。…悪いが、葬式には参列してくれ。家族側じゃなくていいから、お別れを言ってやってほしいんだ。」
父親は、おじいちゃんからしたら息子だ。
その気持ちをむげにはできない。
頭の中の感情が一気に爆発したような、そんな感覚になった。
『年内に葬式を済ませてしまうんだ。急で悪いが、すまない。』
おじいちゃんは、始終謝っていた。