第52章 言葉なんていらない
私の家の電気がついていなかったのを見て、実弥が何やら心配していたけれど、きっとそのうち帰ってくるだろうと…そう思っていた。
一人のリビングはこんなに広かっただろうか。
一人で食べる晩ご飯はこんなにも静かだっただろうか。
カップラーメン久しぶりに食べたなあ。味が濃くて、おばあちゃんの料理と全然違う。
今日はどうしたのかなあ。もう11時なのに。おばあちゃんは買い物に行ったんじゃなかったのかな。おじいちゃんは仕事じゃなかったのかな。
どんない電話しても、メールしても返事がなくて。お風呂から上がってもいなくて。宿題が終わっても帰ってこなくて。
どうしよう。絶対何かおかしいよね。何かあったのかな。おばさんに連絡しようか。それとも直接会いに行って…。
ううん、ダメ。おばさんは独り身とはいえ仕事が忙しいんだから。あの日みたいに、急に呼び出したりするなんて。折角優しくしてくれているんだから、迷惑なんてかけたくない。
……。迷惑、か。
私ってそればかりだなあ。迷惑かけないと何にもできないし、かけたくないって思ってもかけてるし。
でも、今回はいいよね…?だって、緊急事態だし。…ならおばさんじゃなくて警察がいいのかな。
電話…してみる?
いや、もしかしたら本当に帰ってこないだけかも。いやいや、電話の対応待っている間に取り返しのつかないことになってたら…。
私は瞬時に、この家からほんの少し先にある交番のことを思い出した。
そうだ、あそこに行けばいい。小学校の通学路でもあったあの交番の警察官たちは、本当に親切で。私も何回か話したことがある。…父親から殴られた痣を見て、本気で心配してくれたっけ。
うん、そうだ。そうしよう。話だけでも聞いてもらおう。こういう時にどうするべきなのか、私はただパニックになってしまうだけだし。
私はパジャマの上からコートを羽織り、スマホを手に持った。